相続が発生すると、被相続人の財産をどのように分割するかが大きな問題になります。法定相続分や遺言書の内容に従って分配するのが基本ですが、実は「特別受益」という考え方が、遺産分割協議を進めるうえで非常に重要なポイントとなってくるのです。
2023年に法改正された「持ち戻しの10年ルール」についても理解しておくことが大切です。
ここでは、特別受益者の持ち戻しや10年ルールなどについて説明していきます。
特別受益者とは?
被相続人が生前に、特定の相続人に対して結婚資金や住宅購入資金などの形で多額の援助を行っていたケースは珍しくありません。こうした大きな財産の受け取りを「特別受益」と呼び、特別受益を受けた相続人のことを「特別受益者」といいます。
たとえば、被相続人(親)の子2人(兄と妹)が相続人だった場合について考えてみましょう。兄が生前の親からに高額の住宅資金をもらっていたとしたら、妹は「兄だけ生前に大きな財産をもらっている」と感じるかもしれません。相続が始まったときに、こうした不公平感が大きなトラブルとなる可能性があるのです。
特別受益に該当する経済支援など
ほかにも次のような特別受益がよくみられます。
- 結婚や養子縁組のための費用
- 住宅取得資金や建築資金
- 高額な留学費用
- 事業資金の援助 など
なお、日常の生活費や学費など、通常の範囲で必要な支出は特別受益とみなされないことが多いといえます。ただし、援助の金額や内容が一般的な水準を超える場合は、特別受益に該当する可能性があります。
「持ち戻し」とは?相続の公平を保つための仕組み
特別受益によって一部の相続人だけが生前に多くの財産を受け取っていると、相続が開始した際に不公平な分配が生じかねません。そこで法律は、「持ち戻し」というルールを定めています。
持ち戻しの基本的な考え方
持ち戻しとは、特別受益者が生前に受け取った財産をいったん相続財産に合算(戻す)してから、改めて相続分を計算する手続きのことです。こうすることで、本来の遺産総額に近い数字をベースに相続割合を決め、特別受益者の取り分を調整します。
【具体例】
- 被相続人:父
- 相続人:兄と妹
- 生前の贈与:兄が住宅取得資金として200万円を受け取り済み
- 遺産総額:1,000万円
(1)特別受益がない場合の分配
相続人が兄と妹の2人だけなら、法定相続分は1/2ずつです。したがって、1,000万円を兄500万円、妹500万円で分けることになります。
(2)特別受益の持ち戻しを行う場合
兄はすでに生前贈与で200万円をもらっているので、不公平を解消するために「1,000万円+200万円=1,200万円」を遺産総額とみなします。
- 1,200万円を兄・妹で1/2ずつとすると、それぞれ600万円が理論上の取得分となる
- 兄はすでに200万円を受け取っているため、600万円-200万円=400万円を相続で追加取得する
- 妹は600万円を丸ごと取得する
結果として、兄は合計600万円(生前200万円+相続400万円)、妹は600万円を取得する形になり、公平な分配が実現します。
「特別受益の持ち戻しの免除」とは?
被相続人が「私は特別受益者に多くの財産を与えたい」と強く望んでいた場合、法律上の公平ルールである持ち戻しが適用されると、その意思が妨げられてしまいます。そこで、被相続人が「持ち戻しを免除する」意思を示していた場合には、特別受益を含めて計算しない(合算しない)ことを可能としています。これを「特別受益の持ち戻しの免除」といいます。
たとえば、被相続人が遺言書に「長男に生前贈与した1,000万円については持ち戻しをしなくてよい」などと明記すれば、長男の受け取った分を遺産に戻さずに計算することができます。
持ち戻しと遺留分との関係
ただし、持ち戻し免除の意思表示があったとしても、他の相続人の遺留分を侵害してしまう場合は問題です。遺留分とは、法律で保障された一定の取り分で、たとえ被相続人の意思であっても無視できない最小限の財産額を指します。遺留分が侵害されると、他の相続人から「遺留分侵害額請求」が起こされ、財産の再調整を求められる可能性があります。
遺留分侵害額請求とは
遺留分は、被相続人の配偶者や子、直系尊属などに認められる最低限の保障です。特別受益者が多額の生前贈与を受けていたり、持ち戻しが免除されていたりすると、他の相続人の取り分が極端に少なくなる恐れがあります。
その場合、不足している遺留分を補うために、侵害された相続人が遺留分侵害額請求を行うことができます。この請求により、特別受益者や財産を多く受け取っている相続人は、一部の財産を金銭などの形で返還しなければならない場合があります。
遺留分侵害を回避するための対策
被相続人が特別受益を「持ち戻ししなくてよい」と意思表示していた場合でも、遺留分を下回るような分配になってしまうと、遺留分侵害額請求が発生する可能性があります。そのため、多額の生前贈与をしたい場合や、ある相続人に厚く相続させたい場合は、以下の点に注意が必要です。
- 遺言書を作成し、「持ち戻し免除」を明記する
- 他の相続人の遺留分を考慮する
- 専門家に相談し、遺産総額や遺留分を正確に把握する
【法改正】持ち戻しの「10年ルール」
以前は、生前贈与の時期にかかわらず、相続発生時にすべて特別受益として持ち戻しの対象とされていました。
しかし、2023年4月の民法改正により、新たに「相続開始前10年以内の贈与のみが原則として持ち戻しの対象」というルールが導入されました(ただし、配偶者への居住用不動産の贈与等を除く)。
10年を超える贈与は原則として対象外に
相続開始から10年以上前に行われた贈与については、特別受益の持ち戻しから外されるケースが多くなります。ただし、被相続人が持ち戻しの対象とする意思を明示していた場合には、10年を超えていても対象になることもあります。
いずれにしても、贈与の内容・時期・意図が重要になるため、証拠の保全(契約書やメモ、通帳記録など)が極めて大切です。
相続トラブルを防ぐ方法
特別受益をきっかけとする相続トラブルを防ぐためには、元気なうちから次のような対策を採っておくことがとても大切です。
遺言書を作成する
被相続人がどのような考えで生前贈与を行ったか、どのように分配したいかを明確に書き残すことで、相続人同士の摩擦を軽減できる可能性があります。
生前贈与の金額や目的を記録しておく
たとえば、「結婚祝いとして◯◯万円を贈った」「住宅購入資金として△△万円を援助した」といった書面やメモがあれば、後で特別受益を巡る話し合いがスムーズになるでしょう。
専門家に相談しておく
特別受益や持ち戻し、遺留分の問題は法律や実務知識が必要となるため、相続の専門家に早めに相談しておくと安心です。相続人同士で感情的に対立する前に、第三者の客観的なアドバイスを取り入れましょう。
まとめ
特別受益者が存在する場合、生前に多額の財産を受け取った相続人だけが得をするような結果になるのは、他の相続人にとって大きな不公平感を招きます。法律では「持ち戻し」という仕組みを設け、相続人間のバランスを保つようにしていますが、被相続人が持ち戻し免除を意図している場合や遺留分の問題など、現実には考慮すべき点が多岐にわたります。
相続トラブルの発生を未然に防ぎ、公平かつ円満な分割を実現するためには、財産を遺す人(将来の被相続人)が元気なうちから対策しておくことがとても大切なのです。
当行政書士法人では、相続に関する各種手続きをはじめ、特別受益や持ち戻しに関するご相談も承っております。
- 遺言書の作成サポート:持ち戻し免除を希望する場合や遺留分を配慮した内容を記載したい場合など
- 遺産分割協議支援:特別受益をどう考慮すべきか、スムーズな話し合いの進め方
- 遺留分侵害額請求のリスク分析:他の相続人が遺留分を主張する可能性の検討
無料相談も実施しておりますので、相続の事前準備やトラブル回避のために、ぜひ一度お問い合わせください。法律や実務の知識に基づいた専門家のアドバイスを受けることで、公平で納得のいく相続を実現しやすくなるでしょう。










