被相続人に子や親、兄弟姉妹がいなかった場合、法定相続人となるべき者が存在せず遺産を管理することができません。相続人全員が相続放棄する場合も同様です。
このようなときは、家庭裁判所に対して「相続財産清算人の選任の申立て」を行う必要があります。ここでは、相続財産清算人の業務や選任が必要なケース、申立ての流れについて説明していきます。
相続人がいない「相続人不存在」のときの対処法
相続人の有無が不明だったり全員が相続放棄した結果相続人がいなくなったりした場合、家庭裁判所は利害関係者あるいは検察官による申立てを受けて「相続財産清算人」を選任します。
相続財産清算人の選任
相続人の有無が不明である場合の対処について、民法では以下のように定めています。
【民法第951条】
相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
相続人が存在しなかったとしても遺産は確かに存在しますので、管理や保全が必要になります。このため、遺産を相続財産法人として扱い、相続財産清算人を選任して管理に当たらせるのです。
相続財産清算人の業務
相続財産清算人の主な業務には次の事柄を挙げることができます。
- 相続権を持つ人物への声かけを行う(相続人の捜索公告)
- 受遺者や債権者は名乗り出るよう公告を行う
債権者が名乗り出た場合、相続財産清算人は債権者への弁済を行い清算します。
相続人が現れなかった場合、債務清算後に残った遺産は特別縁故者(法律上の相続人ではないが生前の被相続人と極めて深い縁故があった者)に与えられるか、国庫に納められます。
相続人がいることが判明した場合、相続財産法人はもとから成立しなかったことになりますが、相続財産清算人が有する権限(保存行為・管理行為・処分行為)にもとづいて行った行為は有効とされます。
なお、相続人はおらずすべての遺産の遺贈を受けた受遺者がいる場合、これが相続人の不存在に該当するかどうかについて、最高裁は「該当しない」との判断を示しました。また、所在不明の相続人がいる場合、問題は相続人の不存在にあるのではなく、不在者の財産管理にあるとしています。
※参考文献:「東京大学出版会 民法Ⅳ 親族・相続 内田 貴著」
相続財産清算人の選任が必要なケース
相続財産清算人の選任が必要となる具体的なケースについて挙げてみましょう。
1.相続人がいない
被相続人が天涯孤独の身であるなど、法定相続人となるべき者が誰もいない場合は、相続財産清算人の選任が必要です。
2.すべての相続人が相続放棄した
民法第939条によれば、相続放棄した人物は始めから相続人としての地位を持たなかったものとみなされます。仮に、すべての相続人が相続放棄した場合、始めから誰も相続人がいなかったということになりますので、相続財産清算人の選任が必要になります。
相続財産清算人を選任する流れ
相続財産清算人を選任する流れについてみていきましょう。まずは関係者が裁判所に対して申立てを行い、裁判所が審理したうえで適切な人物を相続財産清算人として選任します。
「相続財産清算人の申立て」を行うことができる人
裁判所ホームページによれば、相続財産清算人の選任申立てができるのは次の人物であるとしています。
- 利害関係人(被相続人の債権者,特定遺贈を受けた者,特別縁故者など)
- 検察官
※裁判所ホームページより
上記の人物が、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して、相続財産清算人の選任の申立てを行うのです。
必要書類
相続財産清算人の選任の申立てを行うためには、次の書類を家庭裁判所に提出する必要があります。
【相続財産清算人申立て書類】
(1) 申立書
(2) 以下のうち必要な申立添付書類
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子(およびその代襲者)がすでに死亡している場合は、その子(およびその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の兄弟姉妹がすでに死亡している場合は、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 代襲者である甥・姪がすでに死亡している場合は、その甥・姪の死亡の記載がある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
- 不動産登記事項証明書(未登記の場合は固定資産評価証明書)、預貯金や有価証券の残高が分かる書類(通帳写し,残高証明書等)等
- 利害関係人による申立ての場合は、戸籍謄本や金銭消費貸借契約書写しなど、利害関係を証明する資料
- 相続財産清算人の候補者がいる場合はその者の住民票または戸籍の附票
※裁判所ホームページより
家庭裁判所による審理と選任
利害関係人あるいは検察官による申立てにより、家庭裁判所は審理を開始します。一般的には、公平な第三者として法律の専門家が相続財産清算人に選ばれることが多いようです。
まとめ
ここでは、相続財産清算人の業務や選任が必要なケース、選任申立ての流れについて説明してきました。
もし、ご自身に『相続人となるべき家族・親族がいない』ことがわかっている場合は、できるだけ早い段階で専門家に相談し、自分の財産がどのような扱いを受けることになるのか、元気なうちにできることはないか、など、可能な対策を採っておくことも大切です。
当行政書士法人では無料相談をご用意しておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。