相続人の中に障害のある方や認知症の方が含まれている場合、本人の判断能力の程度によっては通常の相続手続きとは異なる対応が必要になります。
ここでは、相続人に障害者がいる場合の相続対応方法と障害者控除による税務対策について説明していきます。
相続人に障害者がいる場合の留意点
相続は、相続人全員の同意に基づく「遺産分割協議」によって進められます。しかし、相続人本人の障害の程度や内容によっては、特別な対応が必要になることもあるのです。
障害を持つ相続人への留意ポイント
特に重要な点として次の3点を挙げることができます。
- 本人の判断能力の程度はどうか
- 後見人など法律上の代理人が必要かどうか
- 相続税における障害者控除は適用されるかどうか
また、身体障害者か精神障害者かによっても、対応すべきことがらが変わってくる可能性があります。
身体障害者の場合
身体に障害があっても、判断能力(意思能力)に問題がなければ、後見制度は不要です。たとえば、視覚・聴覚・肢体に障害があったとしても、本人が契約内容を理解できる状態であれば、問題なく遺産分割協議に参加することができます。
「身体障害者=後見人が必要」というわけではありません。判断能力の有無が重要です。
精神障害者の場合
精神障害の等級や症状によっては、判断能力が著しく低下しているケースがみられます。遺産分割協議に支障があると判断される場合は、成年後見人の選任が必要になってくるでしょう。
なお、精神障害がある相続人については、医師の診断書や家庭裁判所の判断に基づき、後見人選任手続きを行うのが一般的です。
成年後見制度・任意後見制度の活用
遺言書が遺されていなかった場合は遺産分割協議を行う必要がありますが、相続人に認知症の人や知的障がい・精神障がいを持つ人がいる場合は、成年後見制度や任意後見制度の利用が必要となってくるでしょう。
成年後見制度を利用した場合
成年後見制度により選任された成年後見人であれば、被後見人についてその財産管理権と身上監護権が付与されるため、遺産分割協議に参加したり署名押印したりすることができます。
任意後見制度を利用した場合
一方、任意後見制度とは、被後見人の判断能力が将来的に低下した場合に備え、元気なうちに信頼できる人物を後見人として選任できるものです。
任意後見人は、被後見人の財産を管理運用したり契約に基づいて死後事務を担ったりすることができます。また、任意後見契約で定められた事項については被後見人の代理人を務めることもできるため、契約事項に「遺産分割協議への参加」が含まれている場合は代理人として出席することが可能です。
後見人を選任しなかった場合
仮に後見人を選任しないまま遺産分割協議を行った場合、認知症や知的障がい・精神障がいを持った人の意思が認められず、当該協議による財産分割は無効とされてしまいます。
遺産分割協議が無効になるリスク
無効になればもう一度遺産分割協議をやり直さなければなりませんので、分割した遺産を一旦元の状態に戻す必要があります。財産分割を二度行えば、その分「贈与」や「売買」などが発生することから、これに伴う税金も発生しますので注意しなければなりません。
後見人選任手続きの必要期間に注意
任意後見契約は被後見人がまだ元気なうちに締結するため時間的余裕がありますが、成年後見人の選任手続きには3~4ヶ月かかることもあります。成年後見制度は一般的に急を要する場面で利用されることが多いため、相続人のなかに認知症や知的障がい・精神障がいを持つ人がいる場合は、なるべく専門家に依頼して速やかに手続きできるよう手配した方がいいでしょう。
相続税の障害者控除の適用を受けるために
相続人のなかに判断能力が著しく減衰している障害者がいる場合、後見人を付けて遺産分割協議に臨む必要があるということを説明してきました。もし、当該相続人が85歳未満であれば、相続税の申告および納付に係る実務において、障害者控除の適用を受けることができます。
障害者の判別
「障害者」といっても、障害者手帳の等級によって「一般障害者」と「特別障害者」に分けることができます。
【身体障害者】
- 身体障害者手帳 3~6級:一般障害者
- 身体障害者手帳 1級・2級:特別障害者
【精神障害者の場合】
- 精神障害者福祉保健手帳 2級・3級:一般障害者
- 精神障害者福祉保健手帳 1級:特別障害者
相続税申告における障害者控除の活用
相続人の中に障害者がいる場合、要件を満たせば障害者控除の適用を受けることができます。以下3つの要件すべてを満たしていることが必要です。
【適用要件】
相続や遺贈で財産を得た時点で以下の3点を満たしていること。
- 日本国内在住である
- 障害者である
- 法定相続人である
条件を満たす場合、障害者控除として次の金額を課税額から差し引くことができます。
満85歳になるまで1年につき10万円(特別障害者の場合は1年につき20万円)
なお、障害者本人の相続税額より障害者控除の額が大きい場合は、控除しきれなかった分の金額については、障害者の扶養義務者の相続税額から差し引くことになります。
※過去の相続においてすでに障害者控除を受けている場合は控除額に制限を受ける場合がある
まとめ
相続人に認知症の人や障害を持つ人が含まれている場合、どうすれば遺産分割協議を成立させることができるか、どうすれば正しい相続税の申告および納付ができるか、といった点で困ることが多いといえます。
当行政書士法人では、相続手続きの経験豊かな行政書士を窓口とし、税理士や司法書士(遺産に不動産が含まれている場合など)などと協力しながらトータルサポートを提供しています。認知症や障害など、判断能力が問題になる相続ケースについてお困りの場合は、ぜひ弊社の無料相談をご利用ください。