遺産分割とは、遺言書が遺されていなかった場合、すべての相続人が話し合って「誰が・どの財産を・どのくらい受け継ぐか」を決めることをいいます。遺言書がない場合、遺産は一旦、相続人の共有財産となるため、遺産分割協議が欠かせません。
ここでは、遺産分割の方法や話し合いをするうえでの注意点について説明していきます。
遺産分割の方法
遺産分割は、相続人全員の合意による遺産分割協議が必要です。この協議では、どのような方法で遺産を分割するかを決定する必要があります。ここでは、代表的な3つの遺産分割方法である「現物分割」「代償分割」「換価分割」について、それぞれの特徴やメリット・デメリットを解説します。
1.現物分割とは
現物分割は、遺産をそのままの形で分割する方法です。不動産、預金、株式などを具体的に誰が相続するかを決定します。
◆現物分割のメリット
- シンプルな分割方法であり手続きが簡単
- 各相続人が具体的な財産を直接取得できる
◆現物分割のデメリット
- 財産価値が均等でない場合、不公平が生じやすい
- 不動産を単独相続する場合、その人が有利になる可能性がある
例として、不動産を共有名義にして他の財産を分ける方法も考えられますが、共有は後々のトラブルの原因になることもあります。
2.代償分割とは
代償分割は、特定の相続人が財産を多く相続する代わりに、不公平を解消するため他の相続人に金銭を支払う方法です。
◆代償分割のメリット
- 財産を共有にしなくて済むため、後の管理が簡単である
- 他の相続人に金銭を渡すことで公平性を保てる
◆代償分割のデメリット
- 金銭を支払う相続人が多額の資金を準備する必要がある
- 資金が用意できない場合、この方法を選べない
例えば、不動産を単独相続したいが他の相続人には現金を渡したい場合、代償分割が適しています。
3.換価分割とは
換価分割は、相続財産を売却し、その売却代金を相続人間で分割する方法です。不動産や有価証券などを換金して分けるケースが一般的です。
◆換価分割のメリット
- 現金で分割するため、相続人間での公平性が高い
- 財産の共有によるトラブルを防げる
◆換価分割のデメリット
- 売却時に譲渡所得税が発生する可能性がある
- 売却手続きに時間と費用がかかる
相続財産が売却可能な不動産や有価証券のみで構成されている場合、この方法が適していることが多いです。
遺産分割協議のやり直しに係る条件
一度成立した遺産分割協議をやり直すことは可能ですが、以下の条件を満たす必要があります。
- 相続人全員の合意があること。
- 第三者の利害を損なわないこと。
具体例として、遺産分割後に相続財産が第三者に譲渡されている場合、その譲渡された財産に関してはやり直しができません。
遺産分割協議の無効・取消が起こるケース
なお、以下に示す「解除」「取消し」「無効」に該当する場合は、すでに終えた遺産分割協議についてやり直す必要があります。
【1.解除】
「解除」とは、すでに遺産分割協議を行い成立した合意内容について、何らかの事由にもとづき遡って無効とすることを意味します。
【2.取消し】
すでに合意した内容について、法律上の事由から無効となる場合、その合意は「取消し」されます。具体的には、民法第95条に記載された「錯誤」・民法第96条に記載された「詐欺」「脅迫」に該当する場合が取消しの対象です。
錯誤
重要な事実について誤解があったまま話し合いの合意にいたった場合、これを「錯誤」といいます。錯誤があったまま合意された遺産分割協議は取り消すことができます。
詐欺
他の相続人に騙され、不正確な情報にもとづいて遺産分割協議が成立した場合、その遺産分割協議は取り消すことができます。意図的に誤った情報を与えて合意にいたらしめる行為が「詐欺」です。
強迫
他の相続人に対して恐怖心を与え、無理に合意にいたった遺産分割協議は取り消すことができます。他者にあることをするよう無理強いする行為を「強迫」といいます。
【3.無効】
以下のようなケースに該当する場合は、一旦合意にいたった遺産分割協議でも無効とされます。
- 遺産分割協議書に他相続人が勝手に自分以外の名前を署名した場合
- 遺産分割協議にすべての相続人が参加しなかった場合
- 意思能力が不十分な相続人が遺産分割協議に加わっていた場合
- 未成年の子などについて特別代理人を選任せず利害関係人が代理した場合
- 公序良俗に反する遺産分割内容に合意した場合 など
まとめ
遺産分割には、現物分割、代償分割、換価分割という3つの方法があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。相続財産の内容や相続人間の事情に応じて最適な方法を選択することが重要です。
また、遺産分割協議が適切に行われていないケースでは、合意内容が取消しされたり無効になったりすることがあるため、相続手続きの経験豊かな専門家に相談し、適切な対応について確認することも大切になってくるでしょう。