いずれかの相続人に連絡がつかず行方不明となっており、相続手続きが進まないといったケースは決して珍しくありません。特に、長年疎遠になっていた親族や海外で暮らしていて消息が分からない相続人がいる場合、遺産分割協議を始めること自体が難しくなることもあります。
そこで活用されるのが「不在者財産管理人」という制度です。ここでは、不在者財産管理人の基礎知識や選任手続き、相続手続きへの影響について説明していきます。
行方不明者に代わる不在者財産管理人
民法上、行方がわからず長期間連絡の取れない人を「不在者」と呼びます。具体的には次のような状況下にある人を指しています。
- 長期にわたり所在が不明
- 海外に渡航した後、安否不明・連絡不能
- 全く消息を絶ち、どこに住んでいるかわからない
このような不在者が所有する財産を、第三者が勝手に処分したり管理したりすることは法的に問題があります。しかし、不在者自身が財産を処分できないことから、誰かが不在者の利益を守らなければなりません。そこで必要になってくるのが不在者財産管理人なのです。
不在者財産管理人の役割
不在者財産管理人は、不在者の財産を保全・管理することを目的として家庭裁判所が適切な人物を選任する制度です。財産管理人は、不在者の利益を代弁し、以下のような行為を行います。
- 不動産や預貯金、株式など財産全般の把握・維持管理
- 必要に応じた支払い(税金や公共料金など)の代理
- 不在者に代わって権利を行使する(裁判手続きへの参加、相続手続きへの参加 など)
相続に関していえば、行方不明の相続人に代わって不在者財産管理人が遺産分割協議や相続登記に関する手続きを進めることが可能になります。
不在者財産管理人が必要な理由
遺産分割協議は、法定相続人全員が同意しないと成立しません。行方不明の相続人がいる場合、その人抜きで協議を進めると協議自体が無効となり、後から大きなトラブルに発展する可能性があります。
そこで、行方不明の相続人の代わりに不在者財産管理人が遺産分割協議に参加し、相続人としての権利を代行しその権利を守るのです。
遺産分割を滞りなく進めることができる
被相続人の遺産を分割するには、相続登記や預金解約など、さまざまな手続きが伴います。これらの手続きでは、行方不明であっても相続人である人物の同意や署名押印を省略できませんから、本人の所在がわからない限り手続きが進まないという問題が生じます。
不在者財産管理人を立てることで、行方不明相続人の権利を守りつつ、他の相続人が手続きを続行できるようになるのです。
不在者財産管理人の選任手続き
不在者財産管理人の選任は、申立人が家庭裁判所に申立てることで手続きを進めることができます。
家庭裁判所への申し立て
不在者財産管理人を選任するには、家庭裁判所に申立てを行う必要があります。申立てできる人や申立てなどの条件は次の通りです。
- 不在者の利害関係人(行方不明の相続人を除いた他の相続人や、債権者など)
- 申し立て先:不在者の従前の住所地(または本籍地)を管轄する家庭裁判所
- 必要書類:不在者財産管理人選任申立書、被相続人(不在者)の戸籍や住民票の除票など、行方不明であることを示す資料、相続人の関係を示す戸籍謄本 など
選任後の流れ
家庭裁判所が審査を行い、不在者財産管理人として適任と認められる人物(多くの場合は法律の専門家)が選任されます。選任後は、以下のようにその役割を果たしていきます。
財産調査
不在者財産管理人が、不在者(行方不明相続人)の財産を把握する。
必要な管理措置
税金やローン返済など、不在者の財産から支払うべき費用を処理。
遺産分割協議への参加
相続人全員が行方不明相続人を含めた形で協議を行う(不在者財産管理人が代理)。
家庭裁判所の許可(場合によっては)
重要な財産処分や和解などは、管理人の独断ではなく裁判所の許可が必要になる場合がある。
遺産分割協議における不在者財産管理人の役割
不在者財産管理人は、行方不明相続人の代理人として遺産分割協議に参加します。具体的には、「不在者の代わりに協議内容を確認し同意の意思表示を行う」「協議後に作成する遺産分割協議書に署名押印する」ことが主な仕事となります。
行方不明相続人の権利を保護しつつ、他の相続人が相続手続きを進められるよう調整するのが管理人の重要な役目です。
不在者財産管理人の同意は簡単に得られるか
不在者財産管理人は、不在者の利益を最優先に考える義務があります。したがって、遺産分割協議で不在者に不利な内容が提示された場合、簡単には同意することはありません。必要があれば、財産評価や遺産の内容を精査し、適切な分割案を提案することもあります。
行方不明の相続人が後に見つかった場合の事後対応
遺産分割協議など相続に係る手続きを進めていくなかで、行方不明の相続人がいることが後になってわかることもあります。そのようなとき、不在者財産管理人が行った業務はどのように扱われるのでしょうか。
遺産分割協議のやり直しは?
不在者財産管理人による協議で分割が成立し、遺産分割協議書が有効に締結された場合、後から相続人本人が見つかっても原則として協議のやり直しは行いません。ただし、協議内容に不当な点があった場合や不在者の利益を著しく害している場合など、特別な事情があるときは争いが生じる可能性もあります。
不在者財産管理人の任務は?
不在者が発見された時点で管理人は任務を終了します(家庭裁判所の判断により終結)。その後、不在者本人が「管理人の行為に不服がある」として争うことも考えられますが、管理人は裁判所の許可を得て行動しているため、正当性が認められるケースが多いです。
不在者財産管理人を利用する際の注意点
不在者財産管理人を選任して相続手続きに関わってもらえば、不在者を補って相続を進めていくことができますが、次のような注意点があることも覚えておきましょう。
選任までに時間がかかる
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- 家庭裁判所への申し立てから選任決定まで数カ月かかる場合も
管理人の報酬
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- 管理人は弁護士や司法書士が多く、報酬がかかる(遺産から支払う)
行方不明の相続人が複数いるケース
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- 複数の不在者がいると、手続きがさらに複雑化する
遺産分割協議の結論まで時間がかかる
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- 管理人選任、財産調査、協議への参加、場合によっては裁判所許可が必要などステップが多い
まとめ
相続手続きで相続人が行方不明の場合は、不在者財産管理人を選任して相続手続きを進めるのが一般的です。しかし、不在者を出さないようにすることが大切ですから、普段から親族の連絡先や住所を共有するなど適切なコミュニケーションを図り、もし行方不明の恐れがある場合は早めに専門家に相談しておくことが重要です。
当行政書士法人では、相続に関わる手続きを幅広くお手伝いしており、行方不明の相続人対応や不在者財産管理人の選任サポートについては、別途、司法書士または弁護士をご紹介させていただきます。そうすることでワンストップの支援体制を整えることが可能です。
「一部の相続人が音信不通で困っている」「遺産分割協議を始めたいが行方不明者の同意を得られない」などのお悩みがあれば、ぜひお気軽に弊社の無料相談をご利用ください。










