相続では、被相続人の死亡によって財産が受け継がれる一方、相続税の納税義務が生じる場合があります。ただし、財産の多寡や事前の生前贈与活用によって、相続税の有無や額は大きく変わってきます。
ここでは、特に相続時精算課税制度の申告は自分でできるか、必要書類と手続きの流れについて説明していきます。
相続税の基本と相続時精算課税の位置づけ
相続税が課税されるか、いくらになるかは、生前贈与による贈与税や相続時精算課税制度などによる控除などが影響します。
相続税とは
相続税は、被相続人の財産を相続や遺贈により取得した人に課される国税です。法定相続人(配偶者や子、直系尊属、兄弟姉妹など)や、遺言書で財産を受け取った人(受遺者)などが対象になり得ます。
相続税の申告・納付期限は、被相続人が亡くなった日の翌日から10ヶ月以内です。
相続税速算表と適用条件
相続税は、遺産総額から基礎控除を差し引いたうえで、各相続人の取得金額に応じて速算表を用いて計算します。贈与税と同様に累進課税が採用されています。
以下の条件を満たす場合に、この速算表が適用されます。
- 被相続人の死亡により財産を取得した場合
- 遺産総額が基礎控除額を超えている場合
- 各相続人の取得金額を、法定相続分に応じて算出した場合
※相続税は「実際の取得額」ではなく、一度法定相続分で計算した金額に対して税率を適用します。
相続税速算表
| 法定相続分に応じる取得金額 | 税率 | 控除額 |
| 1,000万円以下 | 10% | - |
| 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
贈与税・生前贈与との関係
生前に財産を子や孫に贈与する場合、通常は暦年課税による贈与税がかかります。ただし、相続時精算課税制度を選択すると、贈与時の贈与税を一時的に抑え、最終的に相続時に合算して相続税として精算する仕組みをとることが可能です。
- 暦年課税:1年間の贈与額に応じて贈与税を計算(110万円の基礎控除あり)
- 相続時精算課税:2,500万円の特別控除を設け、贈与時の負担を軽減しつつ、相続時に合算
贈与税速算表(暦年課税)と適用条件
贈与税は、1年間に受けた贈与額から基礎控除110万円を差し引いた金額に対し、贈与の内容に応じて「一般税率」または「特例税率」が適用されます。
一般贈与財産用の速算表(一般税率)
次のいずれかに該当する場合は、一般税率が適用されます。
- 兄弟姉妹・配偶者・第三者などからの贈与
- 直系尊属からの贈与でも、受贈者が18歳未満の場合
- 法定の「特例贈与」に該当しないすべての贈与
【一般贈与財産用の速算表】
| 基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
| 200万円以下 | 10% | - |
| 300万円以下 | 15% | 10万円 |
| 400万円以下 | 20% | 25万円 |
| 600万円以下 | 30% | 65万円 |
| 1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
| 1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
| 3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
| 3,000万円超 | 55% | 400万円 |
特例贈与財産用の速算表(特例税率)
以下のすべてを満たす場合に適用されます。
- 贈与者が父母や祖父母などの直系尊属であること
- 受贈者が贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上であること
- 受贈者が子または孫などの直系卑属であること
※いわゆる「親や祖父母から子・孫への贈与」に適用される軽減税率です。
【特定贈与財産用の速算表】
| 基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
| 200万円以下 | 10% | - |
| 400万円以下 | 15% | 10万円 |
| 600万円以下 | 20% | 30万円 |
| 1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
| 1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
| 3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
| 4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
| 4,500万円超 | 55% | 640万円 |
一般税率と特例税率の違い
特例税率は、一般税率と比べて税率が低く控除額が大きいため、同じ金額の贈与でも税負担が軽くなります。特に、高額な贈与になるほど差が大きくなるため、贈与のタイミングや方法を検討するうえで重要なポイントとなります。
相続時精算課税制度の概要
相続時精算課税制度の適用要件と非課税枠について確認していきましょう。
適用要件
相続時精算課税制度を利用できるのは、特定の親子・祖父母孫の関係に限られます。
- 贈与者:60歳以上の親または祖父母
- 受贈者:18歳以上の子や孫(2022年4月改正前は20歳以上だったが、現在は18歳以上)
非課税枠と最終的な相続税課税
- 贈与時の特別控除:合計2,500万円まで贈与税がかからない
- 一旦納める贈与税:2,500万円を超えた分については一律20%の贈与税
- 相続時に合算:贈与者が亡くなった際、それまでの贈与財産を相続財産と合算して相続税を計算し、そこから贈与税を控除する(余ったら還付)
相続時精算課税を選択した場合の申告
令和6年1月1日に「相続税および贈与税の税制改正」がありました。これにより、相続時精算課税を選択した者が以下の条件に該当する場合は、贈与税の申告は不要とされています。
【例】
令和6年中に受けた贈与の合計額が基礎控除額(110万円)に満たなかった
→ 令和6年中の贈与額が基礎控除額以下の場合、令和6年分の贈与税申告は不要
自分で集める!相続時精算課税制度の必要書類
相続時精算課税制度の申告を自分でどう行うべきか、手順を追っていきましょう。贈与を受けた年の翌年3月15日までに贈与税の申告を行い、相続時精算課税の適用を申請する必要があります。申告期限を過ぎると、特例は利用できません。
【必要書類】贈与を受けた年の申告
贈与があった年の翌年3月15日までに「相続時精算課税選択届出書」と贈与税の申告書を税務署に提出します。
贈与税の申告書(第1表・第2表)
- 国税庁HPでダウンロード可能
- 「相続時精算課税選択届出書」と一体で提出
相続時精算課税選択届出書
- 初めてこの制度を利用する際に必須
- 贈与税申告書に添付
戸籍謄本
- 贈与者との関係(親子・祖父母と孫)を証明するために必要
贈与契約書(またはその写し)
- 贈与の事実・内容を証明する資料
- 書面での贈与契約が望ましい(贈与日、金額、財産の内容を明記)
財産の評価資料(贈与財産の内容に応じて)
| 財産の種類 | 添付すべき資料 |
|---|---|
| 不動産 | 登記簿謄本、公図、固定資産評価証明書、売買事例等 |
| 上場株式 | 贈与時点の終値の記録(新聞紙面コピーなど) |
| 現金 | 振込記録、預金通帳の写しなど |
住民票の写し(受贈者)
- 受贈者が18歳以上であることの証明
マイナンバー関連書類
- 番号確認書類(通知カードやマイナンバーカードの写し)
- 本人確認書類(運転免許証やパスポートなど)
自分でできる!相続時精算課税の申告手続き
贈与者(親や祖父母)が死亡し相続が開始すると、これまで贈与された財産を相続財産に加算し、相続税を計算します。それまでに贈与税として納めた金額は相続税から控除可能です。
ここでは、相続時精算課税の申告を自分で行う場合の流れについてまとめていきます。
【1】贈与内容の確認と贈与契約書の作成
-
財産の内容・評価額・贈与日を明記
-
必ず書面で契約書を作成しておくことが望ましい
【2】評価額を算出(財産評価)
-
不動産なら固定資産評価証明書、株なら贈与日終値などをもとに評価
-
必要に応じて専門家に評価を依頼(特に不動産や非上場株式)
【3】贈与税申告書の作成
-
国税庁「確定申告書作成コーナー」や書面で作成可能
-
相続時精算課税制度を選択する場合、「選択届出書」も同時に提出
【4】税務署へ提出
-
受贈者の住所地の所轄税務署に提出
-
郵送またはe-Tax(電子申告)も可能
【5】納税(必要な場合)
-
贈与額が2,500万円を超えた場合は超過部分に贈与税(20%)がかかる
-
金額に応じて納付も忘れずに行う
相続時精算課税を利用時の注意点
相続時精算課税制度を利用するときは、次の点に注意が必要です。
暦年課税に戻せない点に注意
一度選択すると暦年課税に戻せないため、将来の相続税負担がどうなるかシミュレーションが重要です。
不動産など評価が変動しやすい資産に注意
値上がりが予想される資産を早めに贈与してしまうと、相続時に合算したときに得か損か判断が難しくなりやすいでしょう。
贈与者が長生きする可能性に注意
早期贈与し過ぎると、相続発生までにさらに大きな財産変動が起こる可能性があります。
毎年贈与の度に申告する点に注意
書類作成や税務署への提出が煩雑ですので、毎年の手続きに労することが考えられます。
相続人間の不公平感が生じる可能性に注意
2,500万円まで受け取れる特定の子がいる一方、ほかの子が暦年課税しか利用していないなど、不公平感が生じる可能性もあります。
相続時精算課税を使って相続税を減らせるのか?
しばしば、「2,500万円まで贈与税ゼロならお得」と勘違いされがちですが、最終的に相続時に合算されるため、相続税が大幅に増える可能性もあります。特に不動産が値上がりした場合や、他の子へ別途相続があり課税対象が増える場合など、トータルで損になることもあり得ます。
専門家とよく相談
自力で判断するのが難しい場合、相続や生前対策の専門家にシミュレーションを依頼してから決めると失敗を防ぎやすいでしょう。
まとめ
相続時精算課税制度は、親や祖父母からの大きな贈与を受けるときに有力な選択肢ですが、適用するかどうかで相続税が大きく変動するリスクも存在します。以下のポイントを押さえ、慎重に判断してみてください。
- 贈与税を抑えて早期に財産を移転できるメリット
- 2,500万円までは贈与税ゼロ
- 最終的には相続時に合算される
- 相続税の負担増につながるケースも
- 一度選択すると撤回できない
- 暦年課税との使い分けができない
- 贈与する資産の種類・価額に注意
- 不動産など評価変動の大きい資産には慎重な検討
- 申告手続きも煩雑
- 毎年の贈与時に申告書提出が必要
「相続時精算課税制度を使って節税したい」と思っても、形だけの節税対策が将来の相続税負担を増やす可能性も否定できません。自分や家族の資産状況、将来のライフプランを踏まえ、専門家と相談しながらベストな選択をすることが大切です。
当行政書士法人では、相続や生前対策の知識・経験豊富な行政書士が、税理士や司法書士など各分野専門家と連携することにより、生前贈与や相続時精算課税の活用などにおいて幅広いサポートを行うことを可能にしています。無料相談も行っていますので、疑問や不安があればお気軽にお問い合わせください。










